狂王戦記

(熟練者:著)

 

第一章 陥穽
 

「朕の具足を持てェェッ!馬曳けえェェいッ!」

手近なメイドに鋭く声をかけるや、狂王は廊下の縁よりパッと飛び降りた。赤いマントがさっとひるがえり、メイドが声を上げる前に地に降り立った狂王は、城門をさして歩き始めていた。

「あっ!陛下!」

あわてて追いすがろうとするメイドには一瞥もくれず、狂王は大股に歩いてゆく。狂王の足の下で、玉砂利がジャッジャッと高い音を立てて飛び散る。

「陛下、お待ちを!陛下!」

狂王の後を追いながら、メイドは必死になって叫ぶ。しかし、狂王の歩みは止まらない。まっすぐに前方を見据え、歩き続ける。

「陛下!」

メイドの悲痛な叫びがむなしく響く。

「陛下!」

「たァけぇい!」

ジャッ!

その時、狂王が蹴散らした玉砂利が、メイドの額を直撃した。(続く)